自閉症児と生きる、境界線のない世界で親が疲れるとき:カサンドラ症候群を回避する具体的サポート活用法
前回のコラムでは、夏休みの「預かりの隙間問題」について取り上げました。
子育てに「終わりのない付き添い」を求められる日々。
自閉症児と共に生きる親は、つい自分の時間を後回しにしてしまい、気づけば疲れや孤独に押しつぶされそうになることがあります。
この記事では、境界線の弱さという自閉症の特性と、親が抱える消耗や罪悪感を見つめながら、カサンドラ症候群に陥らないための具体的なサポート活用法をご紹介します。
※カサンドラ症候群とは、正式な医学用語ではなく、心理学や臨床福祉分野で使われる概念用語です。
「自分の思いや努力がなかなか理解されない」と感じる状況が続き、親やパートナーが疲れや孤独、罪悪感を抱えてしまう状態を説明する際に用いられます。
誰もが少しずつ感じるかもしれない、疲れやモヤモヤに名前をつけたようなイメージです。
自閉症の特性と「境界線」
自閉症の子どもは 「境界線」が弱い ことがあります。
ここでいう境界線とは、自分と他人を分けて認識する力 のことです。
境界線の種類
・心理的境界線:相手が忙しいときに「今話しかけても大丈夫かな?」と考える力
・身体的境界線:自分の身体と他人の身体を区別する力
・社会的境界線:順番や相手の状況を考える力
私が学んでいるシュタイナー教育では、子どもは体や感覚を通して「自分」と「他者」を学ぶといわれています。
自閉症の子どもはこのプロセスが独特で、永遠の幼児期のように周りと一体感を持ったまま過ごすことが多いです。
親の疲れとカサンドラ症候群
境界線の弱い自閉症の子どもと長く関わると、親は心理的に消耗しやすくなります。
いわゆる カサンドラ症候群(Cassandra Syndrome) の状態に近くなることもあります。
カサンドラ症候群のサイン
- 慢性的な疲労感や無力感
- 罪悪感や自己否定感
- 孤独感や理解されない感覚
- 感情の摩耗(怒りや不満が蓄積)
「子どもの要求に応え続けなければならない」と思い詰めると、自己を消耗します。
だからこそ、福祉サービスを活用することが重要です。
どんな福祉サービスがあるか
子どもと成人の支援サービスの違い
障害児の場合、ショートステイや日中一時支援などの預かりサービスは限られています。
これは、親元で家庭の中で育てることを前提とした考え方に基づいています。
つまり、子どもは家庭での生活や親との関わりを中心に成長することが重視されるのです。
一方で、成人障害者の場合は、グループホームへの入居や短期入所(ショートステイ)が充実しています。
これは、成人になれば親の支援に頼らず自立した生活を目指す段階であり、家庭外での生活支援や社会参加が制度的にも広く提供されているためです。
子どもと成人で制度やサービスの充実度に差がありますが、子どもでも日中一時支援や放課後等デイサービスを上手に活用することで、親の負担を軽減し、家庭内の生活リズムを整えることが可能です。
子どもが利用できる福祉サービス
自閉症や発達障害のある子どもを育てる家庭では、公的・民間の支援サービスを上手に活用することが大切です。
ここでは代表的なサービスを紹介します。
サービス名 | 内容 | 対象 | ポイント |
---|
児童発達支援 | 未就学児に、遊びや学びを通して発達を支援 | 幼児期の障害児 | 自立・生活スキルの基礎作り |
放課後等デイサービス | 小学生~高校生が、放課後や学校休業日に通う支援施設 | 学齢期の障害児 | 社会性や生活能力の向上 |
日中一時支援 | 一時的に子どもを預かり、家庭の負担軽減 | 障害児全般 | 家事・仕事の時間確保、親の休息 |
居宅介護(障害福祉サービス) | 家庭での入浴・食事・排泄などの介助 | 身体障害や重度の発達障害児 | 親の身体的負担軽減 |
移動支援 | 外出時に付き添いや支援を提供 | 外出が難しい障害児 | 病院・学校・習い事などへの移動サポート |
短期入所(ショートステイ) | 家庭以外で短期間宿泊し、生活や介護の支援を受ける | 障害児全般 | 旅行・冠婚葬祭・親の休息時に活用 |
民間の有料サービス | 個別療育・習い事・送迎付き支援など | 制度対象外や補助的に利用 | 利用条件や費用は事業所ごとに異なる |
ポイント
- 公的サービスは原則無料または低額で利用できる場合が多い
- 民間サービスは柔軟な対応が可能だが、費用がかかる
- 午前・午後・土日の時間帯に合わせて組み合わせると、親の負担が大幅に軽減できる
具体例:土日午後のサポート活用
ケース:小学生の自閉症児と母親
スケジュール例
時間帯 | 活動内容 | ポイント |
---|---|---|
午前 9:00~12:00 | 親子で休息・遊び・学びの時間 | 親子で充実感を得る時間。外遊びや工作など、一緒に楽しむ活動も |
午後 12:00~12:30 | 昼食 | 食事のリズムを整える |
午後 12:30~16:30 | 日中一時支援利用 | 子どもは支援施設で遊びや生活スキルの訓練。母親は家事、掃除、事務作業、買い物などに集中 |
夕方 16:30~18:00 | 帰宅後、家族で買い物やおやつタイム | 家族でゆったり過ごす時間 |
ポイント
- 午前は親子の時間を確保することで、愛着や安心感を維持
- 午後は専門スタッフに預けることで、親の負担を軽減
- 家事や事務作業、掃除などの生活タスクを無理なくこなせる
- 子どもは他者と関わる経験を積み、社会性や生活リズムを養う
このように土日午後だけでも支援を活用することで、親も子どももストレスをためずに過ごすことができます。
「全日ずっと親が付き添う必要はない」と実感でき、カサンドラ症候群の予防にもつながります。「学校がお休みの日まで、預けるなんて」という声もありますが、考えてみれば、障害のないお子さんも、土日は習い事や部活、友達とのお出かけで、一日中家族と一緒に家にいるわけではありませんね。
まとめ
- 自閉症の子どもは境界線が弱いのは自然
- 親の疲れやカサンドラ症候群も理解できる
- ヘルパーや日中一時支援を活用すると健全な生活リズムが作れる
- 土日や午後のサービス利用は親子双方にプラス
親が自分を責めず、必要なサポートを受け入れることは、子どもにとっても親にとっても大切です。
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もしよければ、こちらの記事も読んでみてください → 我が家の夏休みと、障害児の「預かりの隙間」問題
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さいごに
この記事では、自閉症児の特性や親の疲れ、カサンドラ症候群のリスク、そして具体的な支援サービスの活用方法についてご紹介しました。
親御さんが無理せず、自分の時間も確保しながら、子どもと健やかに過ごすための参考になれば幸いです。
この記事がお役に立てましたら、ぜひご家庭や関係者の方と共有してください。
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ー障害・児童福祉サポート行政書士 武藤久美子ー
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